「グレタ、大きくなったら、コンラッドと結婚しようかな!」 目にいれたって痛くない可愛い可愛い愛娘の一言におれは固まった。 はい? 誰が誰とだって? 「な、な、な、な、な」 「な?」 何だって!? 「ダメだ! グレタ!」 「えー」 すぐさま否定するとグレタは不満そうに頬をふくらませた。ああ、そんな仕草も可愛いなぁ。じゃなくて! 「ダメだ、あんなやつ! 顔はいいわ、声はいいわ、足は長いわ、おまけに性格も良くて…」 あれ、ダメ出ししようとしてるのに、おれってば誉めてる? 「ありがとうございます、陛下」 「うわっ、コンラッド!?」 後ろから突然声が掛かり、びっくりして振り返ると渦中の人物が立っていた。 うわぁ、ニコニコ笑っちゃって、なんか腹立つ。でも、仕方がない。本当、ギャグ以外は完璧なやつなんだから。 悔し紛れにおれはいつもの台詞を言う。 「…陛下って呼ぶな、名付け親」 「そうでした。つい癖で、ユーリ」 コンラッドは、俺の隣に座るグレタの頭を撫でながら訊ねた。 「嬉しいな、グレタ。でも、どうして俺と結婚なんてしようと思ったの?」 「あのね、コンラッドはユーリの護衛でしょう?」 「うん、そうだね」 「護衛だから、ずっとユーリの側にいるでしょう?」 「まあ、そうかな」 「だからね、ずっとユーリの側にいるコンラッドと結婚したら、グレタもずっとユーリの側にいれるんじゃないかなって思ったの。ユーリ、グレタとは結婚できないっていうから一生懸命考えたんだよ」 …本当に、この娘は。 「なんだ、俺じゃなくてユーリ目当てなんですね」 くつくつと笑うコンラッドの声を聞きながら、おれは猛烈に感動していた。 なんて可愛いんだろう。なんていとおしいのだろう。 グレタが部屋から出ていったあと、おれは考えていた。 「どうしたんですか、ユーリ。黄昏ちゃって」 コンラッドはそんな俺の頭を軽く小突いてくる。 「んー、なんかさ、グレタがああ言ってくれるのがうれしくてさ、でも、いつまで言ってくれるのかなぁって考えると…」 「寂しくなっちゃいましたか?」 クスッと笑い、小突いていた手で今度は髪を撫でてきた。まるで、子どもにするようなその仕草に胸が疼いた。 「何だよ、バカにしてんのかよ?」 「まさか。ユーリがうらやましいくらいです。俺も言ってもらいたいな、あんな可愛い台詞」 「はあ? 誰に?」 「可愛い名付け子に」 …さらりと何を言いやがるんだ、こいつは。 「ばーか。言わねーよ、んなこと」 「それは残念」 だって、考えてもみろよ。おれが「大きくなったらコンラッドと結婚したーい」だなんて気持ち悪すぎるだろ。小さな頃ならまだしも、おれはもうじゅうぶん大きいし。 なんてことぼんやりと思っていたら、コンラッドは撫でるのを止め、その手を胸に押し当てた。 「でも、俺は、貴方の側にいますよ。ずっとね」 爽やかな顔をしてなんてことないふうに言うその言葉が、どれだけおれを戸惑わせているか。─こいつはわかってるのかな。
グレタが好きです。
(10.08.18) |