奇跡


夢をみた。

夢の中で、ジュリアは生きていて、とても幸せそうに笑っていた。
彼女の隣にはアーダルベルトがいて、─ああ、これがあるべき姿だと安らかな気持ちで眺めていた。
紛うことのない完璧で幸福な風景。
なのに、ふと、一抹の不安を感じる。
何かが足りない。何か、とても大切なことを忘れている。
何か、何かとは何だ?
辺りを見回しても幸福な光景は崩れることはなく、だが、焦りだけが増していく。

そこで、眼が覚めた。
起きてすぐに俺は彼の部屋へ向かった。魔王陛下の私室へ。
朝の訪れを伝える為の毎日同じ行為だったが、今朝は足が急かされるように動く。
部屋に入り、彼の寝顔を見つめる。少し落ち着いた気がした。
いつもと同じ言葉を掛けると、彼もまたいつもと同じ言葉を返してくれる。
「おはようございます、陛下」
「陛下って呼ぶな、名付け親」
─ユーリ。
いつものように彼の名前を呼ぼうとして、けれども、言葉にならなかった。
「コンラッド?」
彼の瞳が不思議そうに瞬く。
気がついたら抱き締めていた、彼の身体を。
─奇跡だ。
今、ここにある奇跡。
どちらが良いだなんて選ぶことはできない。したくもない。
だけど、今、この腕の中にある、彼が─ユーリが何よりの幸福。




選んではならないけれど。
(10.08.18)

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