「コンラッドは可哀想だなぁ」 そこに何があるというのだろう、友人は一点を見つめたまま呟いた。 「ウェラー卿が? なんで?」 僕はそんな渋谷を観察しながら問うた。 「んー、だってさ、コンラッドはおれの魂が誰のものか知っているじゃん?」 「…渋谷、それは、」 「ジュリアさん」 渋谷はなんてことないようにその名前をだした。けれど、 「コンラッドはジュリアさんが好きだった、特別だったんだと思う。コンラッドは、ジュリアさんの魂を持つおれだから、だからおれのこと好きって言うのかな? 特別だと思うのかな? だとしたら可哀想だなって。おれはおれでしかないのに、ジュリアさんなんか知らない、ただの渋谷有利でしかないのに。おれはただ、おれとしてコンラッドのことが好きなのに」 渋谷はその一点から瞳をそらさない。何かを真っ直ぐ見つめて喋り続けている、ここにはない何かを。 「ジュリアさんはもういないから、コンラッドの気持ちに、おれは応えることはできないんだよ。おれはおれでしかないから」 仮定はいつしか決定になっていた。 「だから、コンラッドは可哀想だなって」 そこまで一気に言うと渋谷はため息をついた。 「いい勝負だと思うけど」 僕もため息をつく。 友人は意外そうな顔をした。 「どういう意味だよ。おれが可哀想ってこと?」 「君もね」 「おれ、も?」 「そう、渋谷もウェラー卿も可哀想だなって」 「……なんで、」 「そんなふうにしか考えられない渋谷も、そんなふうに思われているウェラー卿も、僕から見たら二人とも可哀想に見えるよ」 切ないね、僕はそう付け加えた。 渋谷はしばらくぼんやりと考える素振りを見せていたが、やがて首を振り頬杖をついた。 「そうかなぁ」 「そうだよ」 「…でも、おれはコンラッドの方が可哀想だと思うな」 繰り返す意味のない押し問答。 その瞳は一点を見つめ、ただ。
堂々巡りの果ては?
(10.11.04) |