たったひとつの星だから


イライラする。
何がって、あの胡散臭い笑顔がだよ。
テレビ画面の中のあいつは貼り付けたような笑顔で歌って踊って喋っている。あんなのあいつじゃない。って、主張したところでもはや誰も信じないんだろうけど。
幼なじみで四つ年上のコンラッドが街でスカウトされたのは三年前のこと。それからテレビに雑誌にと少しずつ出始めたコンラッドは瞬く間にブレイクして、いつの間にか大人気アイドルになっていた。
始めはうれしかった。知り合いがアイドルで、しかも大人気だなんてすごいじゃん?
でも、次第に、なんていうのかなぁ、虚しいというか悲しいというか、そんな気持ちになって、今では色んな気持ちを通り越してムカつくようになってしまった。
だって、全然違うんだ。テレビの中のあいつと、おれと一緒にいるときのあいつと。世間で評判の爽やかな笑顔っていうのは同じかもしれないけど、絶対に違う。おれといるときの方が、楽しくて、もっと良い顔をしている。…と思う。
なのに、何なんだよ。そんな楽しくもないのに笑うなよって、もうずっとイライラしている。

***

ゆーちゃん、ママは心配です。

ソファーの上で次男坊はこれでもかってくらいのしかめっ面を作ってテレビをにらんでいる。
テレビに映っているのはお隣のコンラッドくん。爽やかな男前だなとは思っていたけど、まさか大人気アイドルになっちゃうとはさすがのあたしもびっくりよ。
で、心配なのは次男坊。あ、コンラッドくんも次男だけど、うちの有利の方ね。
コンラッドくんが出ているテレビは全部チェック。雑誌も特集を組んでいるのはすべてご購入。足りないのは図書館で確認しているみたい。
まるで熱心なファンの女の子みたい。いい年してうちの子ってば大丈夫って思ったりもした。高校生男子が同年代同性のアイドルを猛チェックだなんてちょっと珍しいものね。
だけど、ママはちゃんとわかってる。
コンラッドくんがアイドルになりたての頃はまだ楽しそうだったけど、今は執念みたいなものを感じるもの。ただのファンじゃないものね。自分の中の根底にある気持ちに素直なだけなのよね。
その気持ちに自分で気づいているか、いまいちわからなくてちょっとそこが心配だったりもするのだけど。

そういえば、コンラッドくんがテレビのトークでよく『お隣の幼なじみの男の子』について話しているけど、その意味についてちゃんとわかっているのかしら?

ゆーちゃん、ママはやっぱり心配です。

***

夜、そろそろかなって思って外に出てみた。
案の定、隣の家の前に車が止まっていた。車から降りたコンラッドはマネージャーらしき人物と何か話している。
ああやって、おれの知らない人と話しているコンラッドは、なんか業界人っぽいというか、なんか、…なんか少しやだなって思ってしまう。
「ユーリ?」
車が去った後、おれに気がついたコンラッドが駆け寄ってきた。
さりげなく笑い掛けてくれる、その笑顔。そうそう、その笑顔だよ、テレビとは違う。ホッとする、安心する笑顔。
─あんたはずっとそういう顔をしていればいいんだよ。
「どうしたの、こんな夜中に?」
「別にー、ただの散歩だよ」
ウソです、本当は会えたらいいなと思ってマシタ。だけど、そんなこと言えるわけがない。
「風呂上がり? 髪が濡れてる。風邪をひくよ」
すっと髪に伸びてきた手を思わずはね除けてしまった。
「あっ…、だ、大丈夫だよ。おれ、バカだから風邪なんてひかないって兄貴がいつも言ってるし」
「…あんまり関係ないと思うけど」
「そ、そんなことより、仕事忙しいの?」
「う〜ん、まあまあかな?」
コンラッドは曖昧な笑みを浮かべる。
「…仕事、楽しい?」
「ユーリは?」
「へ?」
「ユーリは、俺が仕事しているの見ていて楽しい?」
質問を質問で返されてしまった。
「なんで、そんなこと…」
わけがわからなくて戸惑っていると、コンラッドはいつになく真面目な顔でおれを見た。
「ユーリが喜んでくれるから、そう思ったからこの仕事を始めたんだ。だけど、昔はうれしそうだったけど、今はそうじゃなさそうだから…。」
─何を、
「ユーリが楽しくないなら意味がない。だったら、この仕事を─」
何を言ってるんだろう、こいつは。こんなの、まるで、まるで─。
「バカ」
「え?」
「おれがどうのこうので辞めるような仕事じゃないだろう?」
「…それは、」
「責任があるんだから、ちゃんと真っ当しろよな!」
本当は、辞めてくれるなら、それはそれでいいじゃんって思った。だけど、なんか違う気もして、コンラッドにはちゃんと責任を果たして欲しくて。
だけど、だけども、そんなイイコちゃんなことを思う自分が憎くて。
─本当の本当は、ちゃんと気づいていて。
うつむいた視界の端に、こちらへ伸びてくる手が見えた。
その手を掴んで、でも、それじゃあ距離が足りなくて、結局胸ぐらを掴んで引き寄せた。
眼をぎゅっとつむり、ぶつかるようにキスをした。
一瞬の後、眼をあけると驚いた顔が飛び込んできたけど、無視して踵を返した。

後はどうなるかわからない。けど、なるようになれってんだ。ちくしょう!




ついったのお題より『コンユでアイドルパロで受けの片思いメインな作品を2時間以内に5RTされたら書(描)きましょう。』
(10.09.10)

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