始まり


本当はもっとずっと前から続いていたんだろけれど。

眼が合った。
吸い寄せられるかのように顔を寄せた、お互いに。
見つめ合ったまま、数秒。
そして、まるで、呼吸をするようなタイミングで。
唇と唇を触れ合わせた。
ただ、触れ合わせただけ。
そして、また数秒。
どちらともなく離れ、また見つめ合う。

─あれ?
おれ、今、何をした?
もしかして、いや、もしかしなくても、キスをした?
嘘。
だって、男なのに。…コンラッド、なのに。
だけど。
何故だかすとんと落ちてくるように気づいてしまった。
おれ、好きなんだ。コンラッドのことを好きなんだ。
そんな簡単なこと、なんで気づかなかったんだろう?
おれがバカだから、かな?
あ、でも、そうだ。コンラッドは?
彼は、どうして、おれにキスなんてしたんだろう?
じっくりコンラッドを見ると、彼は彼らしくない、やけに余裕のない顔をしていた。
…もしかして、彼も?
「俺は、何故、貴方に、その、キスをしたのでしょうか?」
「おれに訊くなよ」
「…ですよね、でも、」
「でも、おれはあんたのことが好きだよ」
「え?」
「だから、あんたにキスをしたんだ。…たぶん」
コンラッドは驚いた顔をしている。でも、しばらくしてからそれを崩した。いつもみたいに、いや、いつも以上に優しい笑みを浮かべている。
「じゃあ、俺もユーリが好きだから、です。きっとね」
すぐいつものような余裕ある態度に戻ってしまった彼が悔しくて、つまらなくて。
おれはもう一度彼へ顔を寄せ、そして、二度目のキスをした。

─それが始まりだった。




ただ無意識のうちに。
(10.08.18)

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