あったかいって幸せだね


 寒空の下でたたずむ彼はとても小さく見えた。あまり背が高くはない彼だけど、いつもはその存在が大きく、とても強く感じるのに。
 だから、消え入りそうな背中に、思わず声を掛けてしまった。
「あなたを暖めてあげたいな」
 振り返ったユーリは、なんとも言えない怪訝な渋い顔を俺に向けた。
「……コンラッドが言うとなんかいやらしい」
「変な意味じゃないですよ。ただ、あなたがさびしそうだから暖めてあげたいと思っただけで」
 そう返すときょとんとした顔で首を傾げられてしまった。どうやら自覚がなかったらしい。
「さびしそうだった?」
「違いました?」
 問い返され、考え込んだ彼は、しばらくの後、ぽつりと呟いた。
「……わかんないや」
 その声からはいつものような覇気が感じられない。
 気晴らしになればと連れ出した遠乗りであったが逆効果だったようだ。広い荒野で馬を降りて歩くユーリの足取りは重い。
 ユーリは外套の襟を掴み、きゅっと首を縮めた。
 曇り空は圧し掛かるように重く黒い。もうじき雪が降りそうな寒さだ。ユーリが地球で暮らす土地はあまり雪も降らず、ここよりもずっと暖かいらしい。厚着をさせてはきたが、寒さに慣れていないユーリにはそれでも厳しいのだろう。
 再び俺に背を向けてしまったユーリを後ろから抱きすくめた。一瞬、身体を強ばらせたが、それもすぐに解ける。
「ほら、こうやってくっついているだけで暖かくて、随分と安心するものでしょう?」
「……うん」
 小さくうなずいた後、ユーリはなんてことない様子でこう付け加えた。
「でも、それはあんただから、コンラッドがこうしてくれているからじゃないかなぁ」
 彼を抱きしめる腕に力がこもる。他の誰でもない、俺だからこそ、ユーリはこうして落ち着くことができると言うのだ。
「うれしいことを言ってくれますね」
 腕の中でユーリがもぞりと動く。身体をこちらに向き直した彼もまた、俺の腰にぎゅっと腕を回してきた。しばらくの間、無言で互いの体温を感じ合う。
 やがて、俺の胸に顔を埋めたままユーリが呟いた。
「……うん、あったかいって幸せかも」
 そして、顔をあげ、ふと思いついたように訊ねてきた。
「コンラッドもさー、こうして誰かに暖めてもらったことがあるの?」
 邪気のない瞳に見上げられ、俺はため息を飲み込んだ。どうしてだろう、彼はこうしてたまに悪意なく俺の過去の恋愛話を聞きたがることがある。
「……やっぱり、ベッドで暖めてあげましょうか?」
「そうやって話をそらすのよくない」
 低い囁き声を耳に落としても、彼は不服そうに頬を膨らますだけだった。先ほどよりいくらか輝きを取り戻した黒い瞳が俺を睨んでいる。
 仕方なく俺は、手袋をはめた手で彼の両頬を包み込み、唇を奪った。

 ――だって、繋がったほうがより暖かいでしょう?




2012/12/29の冬コミペーパーより再録。
(13.03.25)

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