* pillow talk?

・5頁より

目の前の男が何を言ったのか有利は理解できずにいた。
「……は?」
だから聞き返した。もっと自分にも理解できるように話してくれと祈りながら。
喫茶店の一番奥の席で、有利は男と向かい合っていた。
男は笑みを深め、もう一度有利の為に口を開いてくれた。
「俺と寝てくれませんか? って言ったんです」
――寝る?
ってそれは夜にとる睡眠のことだろうか。そう考えようともしたがおそらく違うだろう。有利も子供ではないのだから、こんな言い方されたらどんな行為を希望されているかくらいわかる。
けれど。
「な、何言ってるんですか、また。冗談はよしてくださいよ」
渇いた笑いとともに吐き出した言葉は何よりも否定を願っていた。要望を冗談だと考えるくらいの猶予は許して欲しい。
というか、有利は商談で営業としてこの席にいるのにどうしてこんな話になっているんだろう。まさかこれも商談の続きなのだろうか。きっちりとスーツを着た相手の姿が歪んで見えてくる。
「まさか。冗談なんかじゃありませんよ」
しかし、男は有利の切なる願いを許してはくれなかった。
冗談でないなら本気だということだ。ということは、この男は本気で有利と寝たいと思っているわけで。
「で、でも……」
だが、待って欲しい。この男は肝心なことを忘れていないか。
「おれ、男……なんですけど……」
思わず語尾が弱くなってしまう。いや、それだってこの男はわかっているはずだ。だって、有利はどこからどう見たって男なのだから。
「ええ、知っていますよ」
案の定、男は言うまでもないとばかりに頷いてくれた。
――ということは?
有利のことを男だと理解しつつも一緒に寝たいと要求してくるこの男は……。
有利の頭の中にカタカナ二文字がぽんっと浮かんだ。
――ホモ。
そうか、この男はホモだったのか!
そうならそうとさっさと言って欲しかったと有利は思う。いや、言われたところで困るには違いないんだけど。
しかし、まさかホモだとは思わなかった。
何しろ、目の前の男――コンラート・ウェラーは爽やかな男前で女にモテまくりそうなやつだからだ。どうしたって男に走るのだろうか。しかも、よりにもよって有利を誘ってくるとは。
有利はどこにでもいそうなこれといって特徴のないただの会社員なのに。



back