・15〜16頁より
ユーリが目を覚ますとすぐ隣にコンラッドの寝顔があった。まだ夢見心地ながらユーリは珍しいなと思う。いつもならばユーリが目覚める頃には、コンラッドは既に起きていてしっかり服を着込んでいる。今日みたいな気だるい空気をまとったままの朝だって、服は着ていなくても大抵はユーリより早く起きて、ユーリの寝顔を眺めながら目覚めるのを待っていたりするのだ。
そういえば、昨夜のコンラッドはどこかおかしかった。何かを思いつめたような、そんな雰囲気だった。
もしかしたら、疲れていたりするのかもしれない。だとしたら、本人は護衛なのにユーリより遅く起きるなんてと言うかもしれないけど、もう少し寝かせてあげるべきだろう。
そう考え、ユーリは改めてコンラッドの寝顔を眺める。すると、なんだか急にこそばゆくなってしまった。普段は隙のない男がユーリの前で無防備に眠っているのだ。大の男に似合う言葉ではないが、妙に可愛く思えてくる。
――幸せって、こういうことをいうのかなぁ。
ふわふわした心地でじっとコンラッドを見つめるが、ふと違和感を覚える。
――あれ?
何かがいつもと違う気がする。
コンラッドはユーリの隣にちゃんいるのに。
どうしてだろう、空虚な感じ、がするのだ。
「……コンラッド?」
ユーリは身体を起こしてコンラッドの頬に触れた。温かい。当たり前だが呼吸だってちゃんとしている。なのに、どうにも違和感が拭えない。
「コンラッド」
胸騒ぎを覚え、ユーリはコンラッドの身体を強く揺すった。けれどコンラッドは目覚めない。気配に聡い彼がこれほどまでして起きないなんて、あきらかにおかしかった。
「コンラッド……どうしちゃったんだよ?」
呆然と呟いたとき、部屋のどこかでユーリを呼ぶ声がした気がした。
「コンラッド?」
しかし、相変わらず彼は眠ったままだ。こんな早朝にコンラッドの部屋を訪れる者がいるとも思えないのだが、誰か来たのだろうか。だとすると、内密に付き合っている二人の関係がばれてまずいことになる。
焦る気持ちで部屋を見回すと、何故か床に落ちている自分の下着が目に付いた。昨夜、情事の最中に脱がされた黒いヒモパンはユーリの精液にまみれ、ぐしゃぐしゃになっている。そのヒモパンの紐が風もないのにそよいだ……気がした。
「え?」
いや、気がしたってもんじゃない、あきらかにうごめいている。この世界では下着も動いたりするのだろうか、それもありえる気がしてユーリは驚くに驚けない。だって、アニシナさんとか見ているともうなんでもありな気がしてくるじゃん? それはそうとこんな謎にあふれるものを身に着けていて、どうして自分は今まで気がつかなかったのだろうと、ユーリはまじまじとヒモパンを眺める。
すると、ヒモパンを目があった。
いや、ヒモパンに目などもちろんない。でも、確かにヒモパンとコンタクトが取れた気がするのだ。
「ユーリ?」
頭の中がはてなマークでいっぱいになり、フリーズしそうなユーリは確かにコンラッドの声を聞いた。慌てて隣のコンラッドを見るが彼はまだ眠っている。では、今の声はいったい――?
「ユーリ」
あきらかにコンラッドの声、なのに眠っているの彼の口は閉じたまま。
「ユーリ、ここです」
ここってどこだよ。あんたは今まさにおれの隣で眠っているじゃないか。ユーリは再び辺りを見渡すが、どうしてかまたヒモパンに視線が行ってしまう。だって、あれ、どう考えてもおかしいし。
「ユーリ、ねえ気づいて」
少し落ち着いてみると、この声は耳から聞こえる音とは少し違う気がした。頭に直接響いているような、そんな感じがする。
ユーリはベッドから降りて、おそるおそるヒモパンに近づいてみた。するとヒモパンは喜びに震える……ように動いたんだと思う、たぶん。
「……コンラッド?」
声を掛けるとヒモパンはうれしそうにこたえた。
「はい、俺です。ユーリ」
ユーリの目の前は真っ暗になった。