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その夜、コンラッドの部屋を訪れたおれはいつになく緊張していた。寝る前の時間をコンラッドの部屋で過ごすのはよくあることなんだけど、今日はちょっと違う。
朝のもやもやした気持ちはロードワークでも発散できなかった。あの出来事がきっかけで色々考えたりもして、ぼんやりするなとグウェンに怒られ、それでも考え続けた結果、頭が爆発した。知恵熱がでそう。もう限界。
こうなったら本人に直接訊くしかない。
出されたお茶にも手をつけずカウチで固まっているおれを見てコンラッドは不思議そうな顔をしてる。
「陛下?」
「だから陛下って呼ぶなって。……あのさ、ちょっと悩んでいることがあって、すげーくだらないことなんだけど、でも考えすぎてよくわからなくなっちゃって。だから、コンラッドも意見も聞かせて欲しいなと思ったんだけど、いいかな?」
「もちろん。俺が役に立つのなら」
コンラッドは物分りのいい保護者の顔で了承してくれた。これからおれが訊くことには相応しくない顔だ。
「あ、あのさ。もしも、もしもだよ? 男同士でさ、えーと、そういうこと? になったら、コンラッドはどっちがいいっ!?」
「は?」
滅多にない呆けた顔でコンラッドはフリーズした。うう、やっぱ引くよなぁ……。
数秒後、解凍されたコンラッドは、ちょっと落ち着かない様子で耳の下を手で触った。
「ええと、どっちというのは……?」
「だから、その、……挿れるほうと挿れられるほうってことっ!」
またフリーズ。再び解凍されたコンラッドはなんとか笑顔を保とうとしているようだった。
「すみません。恥ずかしながら男との経験はないので、ちょっと想像が……」
それって恥ずかしいことかぁ?
ていうか、男との経験はないってことは、女性との経験はあるんですよね。知ってたけど!
「うーん、ユーリはどっちがいいんですか?」
それをおれに訊くなって。悩んでいるんだから。
「よくわからなくて……。相手に希望があるならそっちを優先したほうがいいのかなとか思ったんだけど」
つまり、コンラッド、あんたの希望をききたいんだよ。
「そうですね、俺もそう思います」
だから、そんな優等生の回答じゃ役に立たないんだってば!
「じゃ、じゃあ、相手もどっちでもいいって言ったら?」
「それはまた……困りますね。まあ正直なところ、その、挿れられるほうはあまり想像がつかなくて」
「だよな、おれも!」
って、だめじゃん! 共感のあまり勢いよくうなずいてしまったが、その回答ではまったく解決しない。
肩を落とすおれにコンラッドは苦笑しながら訊ねた。
「ユーリはどうしてそんなことで悩んでいるんです?」
「いや、それは……」
深く追求しないで欲しいのですが。
「まさか男性との性交渉に興味があるとか」
軽い口調はまさかそんなことはないだろうと言っていた。だけど、その言葉に今度はおれが固まってしまう。
「え。ひょっとして本当に……」
熱が一気に顔へ集中する。たぶん真っ赤になっている。それを見れば黙っていてもイエスと言っているようなものだ。
「わ、悪いかよっ!?」
「いえ、悪くはないですが……ひょっとしてヴォルフと」
「違うっ!」
やめろ。あんたにだけはそんなこと言われたくない。
「すみません。そうですよね」
「……ごめん、変なこと訊いて」
「いえ」
気まずい空気が流れる。だめだ、今夜は。もうここにはいられない。
「おれ、部屋にもど……」
「じゃあ、練習しますか?」
「え?」
「男性との性交渉」
そのあと、なんてね、とコンラッドが言おうとしているのがわかった。きっと今朝のように冗談にして流してしまおうとしてくれているのだろう。
「する!」
だから、おれはコンラッドが続きを言う前に急いで口を開いた。
「え? ユーリ?」
コンラッドの戸惑う声にもめげない。冗談になんかさせるもんか。
「する。練習。男とのセックスの」
「本気なんですか? ええと、じゃあ、今度その手のプロを呼んで……」
「やだ」
「え?」
「知らないひととなんて、やだ。知ってるひとがいい」
にらむようにコンラッドを見上げた。
「コンラッドがいい」