好きな物はクマさん柄のオーガニックコットンのロンパースと、ゴム製のアヒルのおもちゃ。ふかふかのブルーのバスタオルに小さな子犬の絵本。 そして、自分の掌に収まりきらない程の大きな青い石と、おおきなおおきなコンラッドの背中。 今日は……、ご機嫌斜めですね。 コンラートはくつくつと煮えている鍋をゆっくりとかき回しつつ背後を窺った。自分が今居る台所へと繋がる入口には安全用の柵があり、その向こうからは潤んだ漆黒のまあるい瞳が二つ、こちらを睨みつけていた。 先日やっとつかまり立ちが出来るようになった彼は、小さな瞳で知らない場所へと冒険するのが最近のお気に入りだ。見知らぬ我が家をハイハイで、時には紅葉のように可憐で小さな手を使って、そびえ立つテーブルの上にある宝物を物珍しそうに触れている。それはもう、楽しそうに、嬉しそうに。 そんな冒険家な彼が目下攻略したいと思っている扉、それがこの柵の向こう側だった。先程まではコンラートの作戦勝ちで、食事前にめいいっぱい遊ぶ事でそれを回避していたのだ。健やかに眠るユーリを見られない事だけは寂しかったが。 「コン!」 一番最初に覚えてくれた自分の名を少々苛立った声で呼んだ小さな怪獣ユーリは、柵をカタカタと揺らして不機嫌を露わにした。それすらも愛おしくて、思わず顔が緩む。 「もう少しだけ待っていて下さいね」 すり下ろしたニンジンで薄いオレンジ色に染まった離乳食は、もう少し煮立ててから冷まさないといけない。 「こんー、こんー!」 柵を開けてあげたいのはやまやまだが、包丁や誤飲しそうなものが鎮座しているキッチンにはあまり来て欲しくないのが本音だ。危険すぎる。だが、このままでは柵の前で盛大に泣きだしてしまうだろう。 コンラートは料理の手を止めてガスを消した。この位なら余熱で何とかなるだろう。冷めた頃にはもう一度こちらに来なければならないけども。 「ふっ……ふえぇ……」 柵の前にしがみついて泣きだしたユーリに、コンラートは慌てて近寄ると抱き上げた。むずがるユーリの背中をゆっくりと、心音に合わせるかのように撫でたたくと、段々と泣き声が収まってくる。 「ユーリはそんなにキッチンが見たいんですか?」 今まで柵の向こう側を一生懸命見ていたユーリは、きょとんとした表情を返すと、「こん!」と嬉しそうにコンラートの髪に触れて笑いだした。そして居間の方へと体を反らす。 「……? キッチンが見たい訳じゃないんですね?」 ゆっくりとユーリを柵の向こう側に降ろし、コンラートは食事の用意をしようとキッチンにまた向かおうとした。だがそれを、ユーリの泣き声が制止する。 「やー! こん! やー!」 赤く染めた顔でコンラートを呼ぶユーリに、思わず笑みが零れる。 子供特有の、目覚めた時の寂しさだと分かっていても、必要とされている事に素直に喜んだ。おそらくキッチンへの興味よりも、自分が側に居なかった事の不安の方が大きかったのだろう。 むずがるユーリをなだめる為に、先程と同じように抱え上げた。 ずっと一緒に居ますよ、大丈夫。 いいようのない幸福感に包まれながら、コンラートはその手の中で笑いだした至宝をそっと抱きしめた。
藍住沙由美さまからいただきました!
ツイッターの診断メーカーでIDに〜が入っていたらリクエストききますとのことで、見事に私のIDと一致したので赤子をリクエストさせていただきました! まず好きなものでニヤニヤ。アヒルはもちろん魔石までくるとは…! 沙由美さんさすがです。 元気な盛りの赤子とそれに手を焼く保護者のコンラッドさん。 赤子が最初に覚える言葉は「こん」で違いありません! むずがる赤子もコンラッドに抱っこされてご機嫌になる赤子も全部可愛いです。 幸せになれる小説を沙由美さん本当にありがとうございました!! (11.05.10) |